LRCⅡシラバス

専門科目群/Social Issues(社会課題)領域

科目名 来るべき災害にどう備えるか~津波、高潮・高波と環境変動を例として~

講師名 中央大学研究開発機構・機構教授、早稲田大学・横浜国立大学名誉教授 柴山知也
学期 冬学期
曜日 火曜日
時間 14時50分~16時20分
日程 1月7日, 1月14日, 1月21日, 2月4日, 2月18日, 2月25日, 3月4日
(補講日:3月11日)

講義概要

 津波や高潮・高波などの沿岸災害は、地震、台風、地形などの自然条件や事前の災害対策などの社会的条件が、都合の悪い事情としていくつか重なると、日本中どこの海岸ででも起こりうる自然災害である。
 45年ほどにわたって沿岸災害の実態の研究を続けてきた私の経験を踏まえて、沿岸災害はなぜ起こるのか、どのように対処して身を守ればよいのかについて、積み重ねられてきた科学的な知見を用いて解説する。
 世界中の沿岸災害を調査する目的は、災害を分析したうえで、地域の立場から減災のための戦略を、それぞれの地域の実情に即して提言していくことである。
 まず災害後に現地調査を行い、データを数値的及び記述的に整理する。災害調査では新しい発見がそのたびに必ずあるので、水理模型実験で現象をより詳細に分析し、物理過程を理解する。その結果を数値予測モデルに取り込んで、具体的に災害発生時のイメージを再構築し、住民と共有することにより、合理的な防災構造物の建設、避難計画の作成などができるようになる。

受講を通して得られるもの

・2019年房総半島台風高潮などの高潮・高波の事例を学び、被災のメカニズムを理解する。
・2024年能登半島地震津波など津波の事例を学び、被災のメカニズムを理解する。
・地球温暖化、地域社会の変動などを踏まえて、沿岸災害への対策を地域の事情に応じて考察できる。
・生活圏、職場、学校、通勤通学路などで災害に遭遇した時の避難行動のイメージを持ち、災害時に自らの身を守ることができる。

受講の際の注意事項

受講前に必要となる知識・準備 必要(第一回の講義までに教科書の42ページから60ページを読んでおくこと。)
グループワーク なし
課題 なし
その他 教科書:高潮・津波がわかる、柴山知也著、朝倉書店、2023年

各回の講義予定

テーマ
概要
第1回テーマ:日本と世界の高潮の事例と教訓
2005年カトリーナ高潮(米国)、2007年シドル高潮(バングラデシュ)、2008年ナルジス高潮(ミャンマー)、2012年サンディー高潮(米国)、2018年ヨランダ高潮(フィリピン)、2018年台風21号高潮(大阪湾)、2019年台風15号高波(東京湾)などを例にして、高潮・高波災害の実態を現地調査結果を用いて解説する。
第2回テーマ:日本と世界の津波の事例と教訓
2004年インド洋津波、2006年ジャワ島中部地震津波(インドネシア)、2009年サモア津波、2010年チリ津波、2010年メンタワイ諸島津波(インドネシア)、2011年東北地方太平洋沖地震津波、2018年スラウェシ島地震津波(インドネシア)、同年スンダ海峡津波(インドネシア)、2024年能登半島地震津波などを例にして、津波災害の実態を現地調査結果を用いて解説する。
第3回テーマ:津波と高潮・高波についての解説
津波と高潮・高波はどのように起こるのか、その発生過程と災害に至る過程の物理的な解説を平易に行う。さらになぜ地域によって被災の状況が異なるのかについて、地域社会の状況のとらえ方についても解説する。
第4回テーマ:水理実験
陸上に氾濫した津波や高潮による被災のメカニズムについては、水理模型実験を用いてその詳細を分析する必要がある。水理模型実験の実際と、具体的な事例についての分析結果を解説する。
第5回テーマ:沿岸域災害の数値シミュレーション
津波の波源域モデル、伝播モデル、陸上への氾濫モデルについて解説する。一方で高潮・高波については気候モデルと結び付けた最新のシミュレーション技術と、温暖化後の地球への適用とその予測結果について最新の結果を解説する。
第6回テーマ:地域ごとの災害イメージと身の守り方
沿岸災害のリスクは、場所によって異なる。私が主な研究対象としている東京都と神奈川県の沿岸部について解説し、地域の視点の重要性について解説する。地域の事情を正確にくみ取った上で減災シナリオを作成して、市町の担当者や地域住民と共に有事に備えていくことが大切となる。
第7回テーマ:沿岸災害から身を守るための演習
本講義で得た知識を用いて、具体的にどのような情報を用いて、どのように災害時に身を守っていくのかについて、教室内での演習を行う。

講師紹介

柴山知也
中央大学研究開発機構・機構教授、早稲田大学・横浜国立大学名誉教授

 45年以上にわたって津波、高潮による沿岸域の被災機構を解明する研究を現地調査、数値予測、水理実験などの手法を用いて進めてきた。 2004年インド洋津波、2011年東北地震津波、2013年ヨランダ高潮、2018年パル湾津波などで調査隊長を務め、世界中の沿岸災害の被災機構を解明し多くの発見をしている。
 Coastal Disaster Surveys and Assessment for Risk Mitigation (2023)、Taylor & Francis刊など、沿岸災害に関する著書、編書、論文多数。
 2019年に濱口梧陵国際賞(国土交通大臣賞、津波・高潮等の防災・減災に関する顕著な功績)を受賞した。