専門科目群/Communication(コミュニケーション)領域
科目名 | おとなのメディア・リテラシー~「ポスト真実」の時代を主体的に生きるために~ |
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講師名 | 早稲田大学教授 高橋恭子 |
学期 | 夏学期 |
曜日 | 土曜日 |
時間 | 13時~14時30分 |
日程 | 7月5日、7月12日、7月19日、8月2日、8月23日、8月30日、9月6日 (補講日:9月13日) |
講義概要
現在は、客観的事実よりも信条や感情が優先される「ポスト真実」の時代といわれます。デマ、偽情報、流言など雑多の情報が溢れるインターネット上の言論空間から信頼に足る情報を選別し、判断することは容易ではありません。「成人の 29%はインターネットから入手した情報の根拠を確かめずに鵜呑みにする」「65歳以上の高齢者層は18歳から29歳の人よりも7倍以上、フェイクニュースをシェアする」という研究報告があります。2024年に実施された国内外の選挙においても、ネット上に飛び交う情報が有権者の選挙行動に大きな影響を与えました。メディア・リテラシーは主に、子どもがメディア社会を主体的に生きる力の養成を目的に発達してきましたが、複雑化した情報社会を生き抜くには、おとなにも求められるスキルです。
メディア・リテラシーは、「メディアにアクセスする」「メディアをクリティカル(批判的)に読み解く」「メディアを活用し、コミュニケーシ ョンを創り出す」という3つの要素から構成されていています。本講義は、これまでのメディアによるメッセージを読み解くメディア・リテラシーの実践に加え、市民同士が日常的に発信するデマや流言に対抗するスキルを学ぶため、欧米で実践されている「ニュース・リテラシー」の方法論も採用します。種々雑多の情報に惑わされることなく、デジタルメディア社会について考え、主体的に生きる力の獲得を目的とします。教材は、実際に放送されたニュース、ドキュメンタリーやネット上の情報を使用しながら、受講者が対話を通じ互いに学べるワークショップ形式の学びを促進します。
受講を通して得られるもの
メディア・リテラシーおよびニュース・リテラシーの獲得。具体的には、
① メディアは現実そのものではなく構成されたものであることを理解する
② メディアは、そこに登場している人々の属性や発言、行動を通して、さまざまな価値観とものの考え方を伝えていることを知る。
③ ニュースの情報源の評価やエビデンスの内容を検証することでニュースの信憑性、信頼性について深く理解する。
④ メディアにおいて、誰の声が聞かれ、誰の声が聞かれないかに気づき、その ことについて独自の視点を提示する。
受講の際の注意事項
受講前に必要となる知識・準備 | 必要(事前に各自のメディアとの向き合い方を考えてもらうなど準備が必要な回もあります。) |
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グループワーク | あり |
課題 | あり(事前に調べることがある回があります。事後は毎回、コメントシートにコメントを記入してもらいます。) |
その他 | 「グループワーク」について メディア・リテラシーの実践では、能動的に意見を聞き、主体的に発言し、考察します。グループワークによって、対話を通じて、メディアに対する考え方や読み解きを共有します。 |
各回の講義予定
回 | テーマ |
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概要 | |
第1回 | テーマ:メディアとは?対話で学ぶメディア・リテラシー |
私たちは日常的にどのようなメディアに接し、どのような情報を得ているのだろうか。メディアと私たちの関係やメディアの役割を考える。 | |
第2回 | テーマ:メディアはものの考え方や価値観を伝える~広告が発信するメッセージ |
私たちは日常的に多くの広告に触れている。広告は商品のサービスだけではなく、価値観やライフスタイルに関する情報も含む。映像広告を見ながら、どのようなメッセージが発信されているかを考える。 | |
第3回 | テーマ:メディアは「現実」を構成する~ニュースに登場する人たち |
ニュースに登場する人たちの属性、発言、行動から、報道が出来事のどの側面から伝えられているかを考える。 | |
第4回 | テーマ:信頼すべきニュースを見極めるには?~ニュースの情報源~ |
ニュースの情報源の評価やエビデンスの内容を検証することでニュースの信憑性、信頼性について理解する。 | |
第5回 | テーマ:現代のプロパガンダを考える |
プロパガンダは特定の思想によって、人々を意図した方向に仕向ける宣伝活動だが、今日、政治や宗教に留まらず、マスコミュニケーションやジャーナリズムにも見られる。現在のプロパガンダとはどのようなものかを考える。 | |
第6回 | テーマ:ジェンダーの視点でニュースを見る |
5年に一度、実施されるグローバルメディア・モニタリングプロジェクト(GMMP)は100か国以上が参加し、ニュースに登場する男女の割合を調査する。女性の登場の世界平均は全体の25%であるが、日本は20%と低い。政治、経済関連ニュースにおける女性の登場はとくに低い。世界経済フォーラムが毎年公表するジェンダー・ギャップ指数の世界ランキングも日本は146か国中118位と低水準である。授業では、ニュースをジェンダーの視点で見ることで、ジェンダー不均衡の現状を考察する。 | |
第7回 | テーマ:偽情報、誤情報にどう対応するか |
2024年は米国の大統領選など世界で重要な選挙が実施され、偽情報や誤情報が飛び交った。日本でも、東京都知事選や兵庫県知事選において偽情報が出回り、真偽を確かめるスキルが求められている。授業では、米国で実践されている「ニュース・リテラシー・プロジェクト」やファクトチェックなどデジタル時代に応じた学びを応用し、偽情報や誤情報にどう対応するかを考える。 |
講師紹介
- 高橋 恭子
- 早稲田大学政治経済学術院教授
早稲田大学政治経済学術院教授。ビジネス・ウィーク東京支局、フリーランス・ジャーナリスト、慶応義塾大学環境情報学部特別招聘教授、早稲田大学川口芸術学校校長を経て、現在に至る。
専門領域は映像ジャーナリズム、次世代ジャーナリズム、メディア・リテラシー。最近はとくに、米国の非営利独立メディアを含む新たなジャーナリズムのあり方やネット上の情報やニュースを読み解くニュース・リテラシーに関心を寄せている。特定非営利活動法人FCTメディア・リテラシー研究所理事、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞選考委員、日本映画制作適正化機構第三者委員会副院長を務める。